PRP(多血小板血漿)治療とは
PRP治療とは採取した患者さんの血液を遠心分離して得られる血小板が多く含まれる成分を患部に注射して組織修復や痛みの軽減を引き出す治療です。膝の痛みでヒアルロン酸注射を長年続けているがあまり効果が得られていない変形性膝関節症の方、いろいろな治療を試してきたけれどなかなか改善しない難治性のスポーツ障害などが適応となります。
再生医療におけるPRP(多血小板血漿)治療について
『再生医療』とは、機能障害や機能不全に陥った生体組織・臓器に対して、細胞や人工的な材料を積極的に利用して、損なわれた機能の再生をはかるものです。当院では多血小板血漿(PRP)治療を行なっておりますが、これは再生医療の1つで、患者さんの血液から体細胞を採取して行う治療となります。PRPとは、Platelet-Rich Plasmaを略した名称で、日本語では多血小板血漿と呼ばれていています。血小板は、血管が損傷したとき損傷した場所に集まって止血をするのですが、その際に多量の成長因子を放出します。成長因子は、組織修復のプロセスを開始する働きをもっています。
PRP治療は、この成長因子の力を利用して、人が本来持っている治癒能力や組織修復能力・再生能力を最大限に引き出す治療で、すでにアメリカやヨーロッパでは数多く行われています。これを自分の身体の傷んだ部分に注射することにより、その部分の組織の修復が促進され、"組織の修復"や"疼痛の軽減"効果をもたらします。長期間にわたる痛みの抑制効果だけでなく、成長因子による軟骨保護効果も期待できる他、自分の血液を用いるため重篤な副作用なく利用できることが特徴です。
一般的に1週間~6ヶ月で組織修復が起こり、治療後2週間~3ヶ月に効果の出現が期待できます。また、繰り返しPRP を投与することで、長期の鋭い痛みをコントロールする事が可能となることが期待されます。
当院は厚生労働省に第2種(関節)および第3種(筋腱)の特定細胞加工物製造届を提出し2022年12月9日に施設番号が付与されております(FC6220019)。
PRPに含まれる抗炎症性物質と成長因子の働き
- 血小板由来成長因子(PDGF-aa, PDGF-ab, PDGF-bb)
細胞の複製を刺激します。血管形成・上皮形成・肉芽組織形成を促進します。 - 形質転換成長因子(TGF-β1, TGF-β2)
細胞外マトリックス形成を促進します。骨細胞の代謝を調節します。 - 血管内皮成長因子(VEGF)
血管形成を促進します。 - 線維芽細胞増殖因子(FGF)
内皮細胞および線維芽細胞の増殖を促進します。血管形成を刺激します。
再生医療による治療が有効とされる方
たとえば膝などの関節軟骨がすり減ってしまう「変形性関節症」の治療は、保険治療では痛み止めの内服やヒアルロン酸の注射などが適応となっていますが、こうした治療で効果が見られなかった患者さんでも、PRPを関節に注射することで、関節組織の修復を促したり、関節の炎症を抑制したりして、痛みが緩和されることが期待されます。
またスポーツ外傷やスポーツ障害の分野でも、多くのPRP治療が行われています。海外で活躍する日本のプロスポーツ選手が、PRPによる肘の靭帯損傷の治療が行われたことも知られています。
- 変形性膝関節症
- :膝の痛みでヒアルロン酸注射を長年続けているがあまり効果が得られていない
:人工関節手術を勧められているが、手術は受けたくない - スポーツ外傷・障害
- :これまでいろいろな治療を試してきたがなかなか改善しない難治性の障害
捻挫・靭帯損傷、肉離れなどの筋挫傷・筋損傷
上腕外側上顆炎(テニス肘)、ジャンパー膝(膝蓋腱炎)、アキレス腱炎、足底腱膜炎など
PRP療法が適応とならない場合もあります
- 出血傾向のある疾患のある方
- 抗凝固薬を使用されている方
- 貧血のある方
- 重篤な感染症のある方や、感染を起こしやすい基礎疾患(がん、糖尿病、免疫不全症、膠原病、肝硬変など)をお持ちの方
- その他主治医が不適当と判断した方
以上のような項目に当てはまる場合、医師にご相談ください。医師が適応なしと判断した場合にはPRP治療を行えない場合があります。
受診の流れ
本治療の適応であるかを診断するために、まず受診をしていただきます。
その際、PRP療法についての説明があります。
診察の結果に基づき改めてPRP治療の予約を取っていただきます。
治療当日は採血⇒PRP抽出⇒治療まで30~60分程度で終了します。
具体的な治療方法
- 1. 採血:患者さんの血液(20〜30ml)
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血液採取後、投与までの間、しばらく待合室にてお待ちください。
- 2. PRP分離:本治療専用の遠心分離機と専用キットを用いて遠心しPRPを精製抽出
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遠心分離をすると血液が成分に応じて分離するので、血小板を多く含む血漿部分層をPRPとして採取します。
- 3. 注射:採取したPRPを患部に注射します。
治療後の一般的な流れと注意点
- 治療当日の激しい運動や飲酒、マッサージなど治療部位に刺激が加わるようなことはお控えください。
- 治療効果、効果の持続時間には個人差があります。
ご自身の血液を使用するため体調や年齢などに左右され、場合によっては期待した効果が得られないことがあります。
予測される危険性と合併症
- 注射による腫れ、痛み、熱感、内出血などが生じる場合がありますが、多くは一時的なものです。しかしながら時に注射後1週間程度このような症状が持続することもあります。
- まれに採血部位、PRP投与部位の血管損傷、血腫、神経損傷、知覚異常、感染などの合併症が見られることがあります。
腫れや熱感を早く改善するためには、クーリング(冷やすこと)をお勧めいたします。症状が強く出た場合はご相談ください。
その他治療についての注意事項
患者様の体調が良くない場合や、採取した血液の状態によっては、PRPを分離できないことがあります。その際には、再度採血をさせていただく場合があります。
本治療に使用する機器は定期的にメンテナンスを行っていますが、突然の不具合発生により、治療の日程やお時間を変更させていただくことがございますので、ご理解の程お願いいたします。
治療後は、必用に応じて1ヶ月後、3ヶ月後及び6ヶ月後に通院していただき、経過観察を行います。
同意の撤回について
説明を十分にご理解された上で、治療を受けるかご自身でご判断ください。実施前であれば同意はいつでも取り消せます。同意を撤回することで患者様に不利益が生じることはありません。
尚、血液加工途中および加工後で同意の撤回があった場合、加工時に発生した医療材料等の費用についてはキャンセル料として患者様のご負担となります。
費用とスケジュール
※PRP治療は、日本ではまだ保険診療として認められていません。そのため、治療を受ける方は自由診療となります。当院での一回のPRP注射にかかる費用は44,000円です。PRP治療は再生医療のひとつですが、先進医療や高額医療の補助の対象とはなりません。PRP治療実施日の痛み止めや湿布の処方、および検査もすべて自費となりますのでご注意ください。
当院では、通常3~4週間の間隔で3回のPRP療法を1クールとして行っていますが、PRP治療を行うかどうかは当日の状態によって医師と患者さんがご相談の上で最終決定いたします。3回の治療を行ってから約3か月後(治療開始から半年)に、痛みがどれくらい取れたか、生活がどれくらい改善したか、レントゲンやMRI検査所見がどう変化したかを評価します。効果が認められた方では2クール目のPRP治療を行う方もいらっしゃいます。